近鉄布施駅を出て、線路脇を西に向かって歩きだした。
十月だというのにひどく蒸し暑い。そのくせ地面は乾いていて、トラックが勢いよく通り過ぎると、その拍子に砂埃が目に入りそうになった。顔をしかめ目元をこすった。
笹垣潤三の足取りは、決して軽いとはいえなかった。本来ならば今日は非番のはずだった。久しぶりに、のんびり読書でもしようと思っていた。今日のために、松本清張の新作を読まないでいたのだ。
これは、東野圭吾の傑作「白夜行」の書き出しである。
笹垣刑事が読もうとしていた「清張の新作」は、なんだろう。
ここに出てくる、いか焼き屋のおばちゃんが読んでいた新聞の公害裁判記事から、冒頭シーンは1973年10月頃と推定される。
そこで1973年に刊行された作品を調べてみると、この年も多くの作品が刊行されている。
全集、文庫、再刊、新装版を除くと新作は次の4作である。
『遊古疑考』 新潮社 1973.9
『火神被殺』 文藝春秋 1973.8
『巨人の磯』 新潮社 1973.7
『表象詩人』 光文社 1973.2 (カッパ・ノベルス)
『遊古疑考』は古代史ジャンルなので除くとミステリーは3冊になる。
『表象詩人』は2月なので少し時期がずれている。したがって近いのは『火神被殺』か『巨人の磯』だ。2冊とも共通しているのは上製本(ハードカバー)で短編集である。
それまで活字本を読まなかった東野圭吾が高校生の頃、「松本清張」や乱歩賞作家「小峰元」の青春ミステリーで読書に目覚めた話はエッセイでよく書いている。
ちなみに笹垣潤三とは、「白夜行」の主人公たちが幼少期から罪を重ねていく迷宮入り事件を、刑事をやめてからも最後まで執拗に追っている主要人物である。
綾瀬はるか、山田孝之の2006年TVドラマ版では武田鉄矢が、堀北真希と高良健吾の2011年映画版では船越英一郎が、それぞれ笹垣潤三を好演している。
韓国版のリメイク『白夜行-白い闇の中を歩く-』も2012年に公開された。
- 今宵も清張ミステリー - 東野圭吾 - 松本清張
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